寝起きに顔を撫でる冬の寒さが坂の上の桜の満開と共に去り、時期尚早の夏物のチラシがうららかで憂鬱な季節の到来を告げていた。
異論も多かろうが、花粉と黄砂が舞うこの季節は読書に限る。
だが手に乗せているのは紙ではない。 今の活字は音楽や映像と共に、スマホの画面から視覚と聴覚を刺激するのだ。
・・・と言う訳で、最近ノベルゲームをいくつか試していたので、まとめてご紹介したいと思います。
今回取り上げているのはシュタインズゲートのような大規模なものではなく、数時間で読み終われる小さめのもの。
その分、手軽に楽しむことが出来ます。
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・森川空のルール・再
超水道
純文学。 高校生のラブストーリーですが、同人恋愛小説のようなキャッキャウフフが展開されるものではなく、登場人物の気持ちの機微と情景描写を中心としています。
初期版は2年ほど前に公開されたのですが、「再」はそれをリメイクした作品で、新しい画像やサウンドなども追加されています。
サスペンスのようなハラハラした展開や、推理小説のような謎に満ちたシーンはありませんが、淡々と続く日常を豊かな表現で描いています。
ごく普通の学生の、そこまで燃え上がるほどでもない関係を綴ったショートストーリーで、こういう純文学系はノベルゲームでは珍しく、その点で貴重です。
選択肢などは一切出て来ない、純粋なビジュアルノベルですね。
超水道の作品は、文庫小説っぽい「佐倉ユウナの上京」や、宮沢賢治っぽい「ghostpia」など、作品によってタッチを変えている印象があります。
ただ全体的に安心して読むことができ、フォントも雰囲気を重視したものが使われています。
文学的なノベルゲームを楽しみたい方には、このサークルの作品がお勧めです。
・森川空のルール・再(iTunes 起動、無料)
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・オズの国の歩き方
サンソフト
風変わりな童話小説。 ガラケーの人気ホラー「歪みの国のアリス」を公開した、サンソフトのモバイルノベルチーム「ナイトメア・プロジェクト」の新作です。
スタミナ制であるため、無課金だと1日に読める量に限りがありますが、毎日少しずつ読み進めるのであれば無料で楽しめます。
「オズの魔法使い」をテーマにした内容で、童話がテーマな点は「歪みの国のアリス」と同じですが、今回はホラーという訳ではありません。
文体は「だ・である調」ではなく、小説には珍しい「です・ます調」で、たまにナレーターの感想も入るなど、童話小説の形式で描かれています。
ただナイトメア・プロジェクトらしく、まったく先の読めない展開で、たまに不気味さも見え隠れする、読み出すと止まらない面白さがあります。
メーカー製の新アプリであるため、メニューや背景が綺麗で、サウンドも豊富です。
難点はやはり課金形態。 スタミナは毎日4つ補充されますが、課金補充には 360 円(初回 120 円)必要で結構高い。 無制限化する課金もありますが 4800 円と超高額。
スタミナ1つでどのぐらい読めるかはシーンによって変わります。
また読み返し機能なども課金通貨でアンロックしないと使えません。
ただ、通勤通学時に少しずつ読んでいく分には、お勧めできる作品ですね。
・オズの国の歩き方(iTunes 起動、アイテム課金型)
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・ごがつのそら(+はちがつのゆき)
Mayuki Yoshimura / tencross
同人的な恋愛小説。 美少女で女子高生でピアノを弾く巫女という、非現実感全開な女の子と新社会人が仲良くなる、このジャンルらしい内容です。
元は Flash のゲームで、スマホ版はそれをテンクロスというメーカーがアプリ化したものです。
画像は縦画面ですが、縦でも横でも遊べます。
普通の小説という感じですが、読みやすい文章ですね。
内容は五月病の主人公が神社の境内でミコミコJKと話す恋愛ストーリーで、ほぼこの2人の会話で進行します。
正直言うと、私は単にイチャイチャする小説は耐えられないので、この作品もダメだったのですが、この手を好む人からの評価は高く、だからこそアプリ開発会社が目を付けたのでしょう。
無料のままでは前編しか読めず、後編に進むには 240 円の課金が必要なので注意。
ただ、課金すると後編の後に追加ストーリー「はちがつのゆき」も見ることができます。
個人作成のノベルゲームとしては知名度のある作品です。
・ごがつのそら(iTunes 起動、実質 240 円)
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・あの、素晴らしい をもう一度
自転車創業
ゲーム性の強いライトノベル。 こちらもパソコンのノベルゲームとして有名だった作品です。
記憶喪失の勇者様が美少女と一緒に堕天使を倒して世界を救う、ライトノベルの王道的設定。
かと思ったら、2週目から急に謎解きゲームに変わり、周回と記憶喪失を利用した特徴的なストーリーに変わっていきます。
1週目は単なる短いノベルで、ラストまで2時間ほど。
しかし2週目に入ると文章の好きな場所に移動できるようになり、選択肢にも瞬時に移ることができます。
また、特定のキーワードを装備しておくことで展開が変化する場合もあります。
これらを使って新ルートを模索していきます。
ただ、謎解きがやたら難解・・・ と言うか解り辛く、「物語的にどうすれば良いかは解っているけど、何をすればそれを実行できるかが解らない」といった状況が続きます。
ゲーム中に「総当たりではなく推理して行動しよう」と言われますが、そういう作りになっていない印象で、強いて言えば「ゲームの作られ方」を推理していく感じでしょうか。
ただ、今はネット時代ですから行き詰まっても検索でどうにかなりますし、全体のストーリーには評判通りの深さがあります。
しかし価格は 2200 円。 知名度は高いけど、この値段で勧められるアプリではないかな・・・
・あの、素晴らしい をもう一度(iTunes が起動します)
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・ドグマツルギー ouverture
Bear's Studio, Inc.
自称ライトノベル。 実際にはガッカリなホラー系の小説です。
謎の書物を手に入れたオカルトサークルが、人のいない新宿で死の恐怖から逃げる内容で、4gamer の こちら のインタビューを見て期待感を持っていたのですが、もうほんとガッカリでした。
あまりにガッカリ過ぎて「もっとマシなのはないのか!」とノベルゲームを手当たり次第に漁ったのが、今回の記事に繋がっていたりします・・・
新宿が奇妙な世界になり、殺人鬼に追われることになるのですが、なぜ奇妙なことになったのか、なぜ追われるのか、そういった謎が何一つ解明されません。
ただ逃げるだけの内容で「投げっぱなし感」がハンパない。
途中で選択肢が出て来ますが、常に二択でハズレたら即死という、あまりに単純な内容。
ストーリーも短く、2週目は展開が変わりますが、変わっても新事実とかは何も出て来ません。
バックログ(読み返し)機能なども無し。
セリフは全てフルボイスで、声優さんが声をあてており、そこだけ豪華。
今作はプロローグ編のようで、ユーザーの意見を聞きながら今後の展開を行いたいようですが、これじゃ広がり様がないってのが本音です・・・
・ドグマツルギー ouverture(iTunes 起動、480 円)
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今回の書評はここまでにしたいと思います。
もちろん iPhone には、まだ多くのノベルアプリが存在します。
それらはまた、アスファルトに陽炎が揺らめく頃に。
異論も多かろうが、花粉と黄砂が舞うこの季節は読書に限る。
だが手に乗せているのは紙ではない。 今の活字は音楽や映像と共に、スマホの画面から視覚と聴覚を刺激するのだ。
・・・と言う訳で、最近ノベルゲームをいくつか試していたので、まとめてご紹介したいと思います。
今回取り上げているのはシュタインズゲートのような大規模なものではなく、数時間で読み終われる小さめのもの。
その分、手軽に楽しむことが出来ます。
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・森川空のルール・再
超水道
純文学。 高校生のラブストーリーですが、同人恋愛小説のようなキャッキャウフフが展開されるものではなく、登場人物の気持ちの機微と情景描写を中心としています。
初期版は2年ほど前に公開されたのですが、「再」はそれをリメイクした作品で、新しい画像やサウンドなども追加されています。
サスペンスのようなハラハラした展開や、推理小説のような謎に満ちたシーンはありませんが、淡々と続く日常を豊かな表現で描いています。
ごく普通の学生の、そこまで燃え上がるほどでもない関係を綴ったショートストーリーで、こういう純文学系はノベルゲームでは珍しく、その点で貴重です。
選択肢などは一切出て来ない、純粋なビジュアルノベルですね。
超水道の作品は、文庫小説っぽい「佐倉ユウナの上京」や、宮沢賢治っぽい「ghostpia」など、作品によってタッチを変えている印象があります。
ただ全体的に安心して読むことができ、フォントも雰囲気を重視したものが使われています。
文学的なノベルゲームを楽しみたい方には、このサークルの作品がお勧めです。
・森川空のルール・再(iTunes 起動、無料)
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・オズの国の歩き方
サンソフト
風変わりな童話小説。 ガラケーの人気ホラー「歪みの国のアリス」を公開した、サンソフトのモバイルノベルチーム「ナイトメア・プロジェクト」の新作です。
スタミナ制であるため、無課金だと1日に読める量に限りがありますが、毎日少しずつ読み進めるのであれば無料で楽しめます。
「オズの魔法使い」をテーマにした内容で、童話がテーマな点は「歪みの国のアリス」と同じですが、今回はホラーという訳ではありません。
文体は「だ・である調」ではなく、小説には珍しい「です・ます調」で、たまにナレーターの感想も入るなど、童話小説の形式で描かれています。
ただナイトメア・プロジェクトらしく、まったく先の読めない展開で、たまに不気味さも見え隠れする、読み出すと止まらない面白さがあります。
メーカー製の新アプリであるため、メニューや背景が綺麗で、サウンドも豊富です。
難点はやはり課金形態。 スタミナは毎日4つ補充されますが、課金補充には 360 円(初回 120 円)必要で結構高い。 無制限化する課金もありますが 4800 円と超高額。
スタミナ1つでどのぐらい読めるかはシーンによって変わります。
また読み返し機能なども課金通貨でアンロックしないと使えません。
ただ、通勤通学時に少しずつ読んでいく分には、お勧めできる作品ですね。
・オズの国の歩き方(iTunes 起動、アイテム課金型)
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・ごがつのそら(+はちがつのゆき)
Mayuki Yoshimura / tencross
同人的な恋愛小説。 美少女で女子高生でピアノを弾く巫女という、非現実感全開な女の子と新社会人が仲良くなる、このジャンルらしい内容です。
元は Flash のゲームで、スマホ版はそれをテンクロスというメーカーがアプリ化したものです。
画像は縦画面ですが、縦でも横でも遊べます。
普通の小説という感じですが、読みやすい文章ですね。
内容は五月病の主人公が神社の境内でミコミコJKと話す恋愛ストーリーで、ほぼこの2人の会話で進行します。
正直言うと、私は単にイチャイチャする小説は耐えられないので、この作品もダメだったのですが、この手を好む人からの評価は高く、だからこそアプリ開発会社が目を付けたのでしょう。
無料のままでは前編しか読めず、後編に進むには 240 円の課金が必要なので注意。
ただ、課金すると後編の後に追加ストーリー「はちがつのゆき」も見ることができます。
個人作成のノベルゲームとしては知名度のある作品です。
・ごがつのそら(iTunes 起動、実質 240 円)
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・あの、素晴らしい をもう一度
自転車創業
ゲーム性の強いライトノベル。 こちらもパソコンのノベルゲームとして有名だった作品です。
記憶喪失の勇者様が美少女と一緒に堕天使を倒して世界を救う、ライトノベルの王道的設定。
かと思ったら、2週目から急に謎解きゲームに変わり、周回と記憶喪失を利用した特徴的なストーリーに変わっていきます。
1週目は単なる短いノベルで、ラストまで2時間ほど。
しかし2週目に入ると文章の好きな場所に移動できるようになり、選択肢にも瞬時に移ることができます。
また、特定のキーワードを装備しておくことで展開が変化する場合もあります。
これらを使って新ルートを模索していきます。
ただ、謎解きがやたら難解・・・ と言うか解り辛く、「物語的にどうすれば良いかは解っているけど、何をすればそれを実行できるかが解らない」といった状況が続きます。
ゲーム中に「総当たりではなく推理して行動しよう」と言われますが、そういう作りになっていない印象で、強いて言えば「ゲームの作られ方」を推理していく感じでしょうか。
ただ、今はネット時代ですから行き詰まっても検索でどうにかなりますし、全体のストーリーには評判通りの深さがあります。
しかし価格は 2200 円。 知名度は高いけど、この値段で勧められるアプリではないかな・・・
・あの、素晴らしい をもう一度(iTunes が起動します)
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・ドグマツルギー ouverture
Bear's Studio, Inc.
自称ライトノベル。 実際にはガッカリなホラー系の小説です。
謎の書物を手に入れたオカルトサークルが、人のいない新宿で死の恐怖から逃げる内容で、4gamer の こちら のインタビューを見て期待感を持っていたのですが、もうほんとガッカリでした。
あまりにガッカリ過ぎて「もっとマシなのはないのか!」とノベルゲームを手当たり次第に漁ったのが、今回の記事に繋がっていたりします・・・
新宿が奇妙な世界になり、殺人鬼に追われることになるのですが、なぜ奇妙なことになったのか、なぜ追われるのか、そういった謎が何一つ解明されません。
ただ逃げるだけの内容で「投げっぱなし感」がハンパない。
途中で選択肢が出て来ますが、常に二択でハズレたら即死という、あまりに単純な内容。
ストーリーも短く、2週目は展開が変わりますが、変わっても新事実とかは何も出て来ません。
バックログ(読み返し)機能なども無し。
セリフは全てフルボイスで、声優さんが声をあてており、そこだけ豪華。
今作はプロローグ編のようで、ユーザーの意見を聞きながら今後の展開を行いたいようですが、これじゃ広がり様がないってのが本音です・・・
・ドグマツルギー ouverture(iTunes 起動、480 円)
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今回の書評はここまでにしたいと思います。
もちろん iPhone には、まだ多くのノベルアプリが存在します。
それらはまた、アスファルトに陽炎が揺らめく頃に。