コンピューター RPG の原点「Wizardry」(ウィザードリィ)
ターン制のバトルと 3D ダンジョンの元祖と言われる伝説的な作品で、日本でもファミコン版の大ヒットによりファンタジー RPG の礎の1つとなりました。
しかし続編の不人気と新シリーズの迷走、開発会社の倒産と版権の争いにより、元祖ウィザードリィの名声は地に堕ちてしまった悲運の作品です。

そんなウィザードリィを復刻しようと日本ではいくつかの新作が登場していますが、前述の「版権問題」が災いし、中途半端な再現となって原作ほどの支持を得られていないものが大半です。
すでに iOS で登場している「Wizardry 囚われし魂の迷宮」も、私的には決して悪くなかったとは思うのですが、巷の評価はイマイチで、「ウィザードリィらしさ」もなくなっています。

そんな「復刻ウィザードリィ」ですが、唯一多くのプレイヤーに支持されていた作品が存在します
ゲームボーイで展開していた「Wizardry外伝」シリーズです。
この作品は初代ウィザードリィの良さをそのまま引き継いでおり、原作のファンからも賞賛されていました。
そのウィザードリィ外伝もスーパーファミコンやプレステで発売されたものは、やや雲行きが怪しくなっていくのですが・・・

そのウィザードリィ外伝を復刻した、つまり「ウィザードリィの復刻版の復刻版」と言えるゲームが 2005 年に Windows で発売されており、それが先日 iOS にも移植されました。
Wizardry外伝 ~戦闘の監獄~」です。

Wizardry外伝 ~戦闘の監獄~

原点回帰」を目指して作られた作品で、残念ながら版権の問題で都市名、施設名、魔法名、アイテム名などはオリジナルとは違うのですが、グラフィックもゲーム内容も非常にオリジナルの雰囲気が出ています。

オリジナルの要素や改編されたシステムが存在し、まったく「そのまんまのウィザードリィ」ではないのですが、その内容はまさに「初代ウィザードリィシリーズ」をベースにしているのが伺えます。
「Wizardry 囚われし魂の迷宮」はウィザードリィと言っても、内容が全く変わってしまった「Wizardry 6」以降がベースだったのですが、こちらは「ファミコン版ウィザードリィ」のテイストで楽しめますね。
モンスターのグラフィックもファミコン版ウィザードリィのグラフィックデザインを担当した方が描かれており、非常に「それらしい絵」になっています。

設定の変更によりダンジョンを「線画」にして、「キーボード」を接続して楽しむ事も可能で、初期のパソコン版ウィザードリィのようなスタイルで遊ぶことも出来ます。
この辺には「原点回帰」のこだわりが見て取れます。

操作は2タイプ、「コントローラー操作」と「タッチ操作」で、初期状態はコントローラーです。
コントローラー操作時には画面にでっかく十字キーとAボタン&Bボタンが描かれており、それが画面を一部隠しているのですが・・・ でっかいだけあって、操作性は良好です
タッチ操作の場合は画面を直接さわってコマンド選択できる他に、「キーボード」(テンキー)を表示して、それを使ってダンジョンを移動することも出来ます。

演出やアニメーションのようなものは乏しく、ファミコンのように「パッパッ」と移動するスタイルで、魔法も効果音のみ。 しかしボタンを連打すれば素早く進めますし、戦闘も連打すればどんどん進行します。
今風の派手さはありませんが、オリジナル(と言うかファミコン版)にあった「サクサク感」がありますね。

もちろん戦闘でピンチになったり、レベルアップ時に HP が 1 しか増えなかった時に「リセット」することも可能
マルチタスクからもアプリを消さないといけないのがやや面倒ですが、「不条理な難易度」ながらも「リセットで融通が利く」ゲーム性はそのままです。

Wizardry外伝 ~戦闘の監獄~
※コントローラー表示時。 画面が一部見えにくくなっているが、操作性は悪くなく、動作も快適。
ただしコントローラーでの操作中は一切のタッチ選択は出来ない。
タッチ操作でもプレイしやすいが、文字やコマンド欄が小さいので、iPhone でプレイする際には精密なタップが要求される。 タッチ操作は iPad 向けという印象。


Wizardry外伝 ~戦闘の監獄~
※キャラクターメイキングはオリジナルとは少し違う。
TYPE-A と TYPE-B が用意されており、TYPE-A は職業の選択に能力値が関係しない。 よって忍者だろうがロードだろうが(性格が合っていれば)ボーナスポイントが低くても作成可能。
TYPE-B はボーナスポイントの範囲内の職業しか選択できないオリジナルの方式だが、職業選択後に必要な能力が自動で振り分けられるため、「この職業に必要な能力値はなんだったっけ?」と悩まなくて済む。
いずれにせよ、ボーナスは 15 以上が出るまでやり直すと思うので、(いきなり忍者やロードを作る場合を除き)どちらのスタイルでもあまり大きな差はない。
なお、一度名前を入力した後は、再作成時の名前入力時にすぐ決定を押すと、前回の名前が自動的に入力される。 よって何度も作成を繰り返す時、毎回名前を入力する必要はない。 (後で名前を変えることも可能)


ゲームシステムについてですが、基本的にはオリジナルを踏襲しています。
Wizardry 囚われし魂の迷宮」の時にも書きましたが、ウィザードリィというゲームは今のような「親切なゲーム」ではなく、2歩先さえ見渡せない暗い迷宮、最初は数回しか使えない魔法、油断するとすぐ死ぬキャラクターという、非常に「不条理な難易度」のゲームです。

序盤は入口近くで数回戦ったら街に戻る、というのを繰り返して慎重に育成する必要があり、ヘタな好奇心は死に直結する「サバイバル RPG」です。
最近の RPG しか知らない方にとっては、ある意味「クソゲー」であり、基本的には「経験者向けのゲーム」であることを知っておきましょう。
まあ前述したように「リセットで直前に戻れる」し、慎重な行動が必要なことさえ解っていれば、決して無理なゲームではないですけどね。

ゲームシステム面においてオリジナルと違う、主な点は以下の通りです。

・武器に射程があり、中距離/長距離なら後衛から攻撃可能
・主武器と補助武器があり、補助武器装備による2刀流が可能
・装備に「特殊効果」が存在する
オートマッピング(ただし確認には魔法の使用が必要)
ダンジョンが複数存在する。 メイン3種類と、特殊ダンジョンが1つ。

このうち補助武器と装備の特殊効果以外は、ゲームボーイ版の Wizardry 外伝にもあったものです。
特徴的なのは「特殊効果」で、迷宮で手に入れた装備に「悪魔系に2倍ダメージ」「氷結魔法に強い」などの効果がランダムで付いている場合があります。
また、武器屋で「魔法を込める」を選択することでもランダムに効果を付加することができ、お金を払って特殊効果を取り払うことも可能です。
この「特殊効果」の存在は賛否両論があるようですが・・・ ディアブロ的なアイテム収集要素を追加したかったのでしょうか。

補助武器は盾の代わりに持てる物で、よほど有用な両手武器や盾が手に入らない限り二刀流の方が強いのを覚えておきましょう。(ただしレベルが上がると二刀流の有用性は下がっていきます)
また、後衛でもフレイルや杖などの中距離武器を持つことで武器攻撃に参加できますが、敵の中にもいきなり後衛を殴ってくる者がいるので注意して下さい。

Wizardry外伝 ~戦闘の監獄~
※レベルアップで HP が 1 しかあがらなかった時はリセットだ! タスクからも消さないといけないので注意。
邪道な様だが、これを知らないとトンでもなく弱いキャラが出来てしまうのは Wizardry のお約束。
(ただ、内部で決められている基準値より HP が低い場合、次回のレベルアップで HP が上がりやすくなる)
セーブのタイミングは、ダンジョン内なら戦闘後かキャンプ時。 キャンプは A ボタンか「C」キーで行えるので、合間合間で行っておくと安全。
町では施設一覧が表示されている時にセーブされるので、宿屋に泊まって HP が多く上がった時は、一旦町に戻ってセーブしてこよう。
レベルアップできるキャラクターはステータス表示に UP と表示されて一目で解るようになっていて、細かいところで「ウィザードリィをよく解っている」配慮が見受けられます。


Wizardry外伝 ~戦闘の監獄~
※オートマップを確認するには「ウィザードアイ」という魔法を使うか、「方位の巻物」というアイテムを使う必要がある。
魔法を使える回数には限りがあるので、「方位の巻物」を大量に買い込んで冒険した方が安全。
方位の巻物を買うお金は数回ダンジョンに潜れば十分に貯まるはず。
なお、ダンジョン内にある「スイッチ」を入れる事で、その階のミニマップを表示する事も出来る。
ただしミニマップが有効なのはその階だけで、次の階に進んだら新たなスイッチを探さなければならない。


Wizardry外伝 ~戦闘の監獄~
※装備関連の設定がオリジナルの Wizardry とは大きく違うところ。
この武器には HP 吸引や悪魔への2倍ダメージ、ステータス修正が付いている。 マイナスが付いている場合もあるが、武器屋で効果を取り除くことも出来る。
ただし効果を取り除くと、有用な効果も全部まとめて消えるので注意。 また、呪文が付いている場合、それを発動して呪文を使うと、その装備は消えてしまうので要注意!
レンジは中距離以上なら後衛から攻撃可能。 装備の種別が「補助武器」なら盾の変わりに持つ事が出来る。
1D8+0 という表記は、ダメージ算出時に 1~8 のダイスを1回転がして計算する事を意味している。
これが 1D5+3 だと 1~5 のダイスを1つ転がして 3 を足し、4~8 のダメージになるので、こちらの方が高いダメージが出やすくなる。
2D6+0 だと 1~6 のダイスを2個振って算出する。 この場合、サイコロを2個振るので中間の数値が出る確率が高くなり、つまり威力のバラツキが少なくなる。


難点は、元がパソコン用のソフトで、それをそのサイズのまま iOS 版にしているため、文字や選択欄が非常に小さいこと。
iPhone / iPod touch で見ていると、あまりの小ささに目が痛くなってきそうです。
Retina ディスプレイのおかげで文字が潰れているという事はないのですが、目の悪い人だとさすがに辛そう
(だから Retina ディスプレイじゃない iPhone / iPod touch は非対応になっています)
さらにタッチ操作だとこの小さな文字をタップする必要があるため操作ミスも起こりやすいです。
iPad なら問題はないので、iPad がある人はそちらでプレイするのを推奨します

また、「コントローラー操作」と「タッチ操作」の2種類がありますが、それぞれが一長一短です。
コントローラー操作はダンジョンの移動がしやすく、町でのコマンド選択なども素早く行えますが、アイテム選択時や受け渡し時にはカーソルを何度も動かさなければなりません。

「タッチ操作」だと全体的にプレイしやすい反面、ダンジョン内の移動は小さなキーボード表示に頼る必要があるため誤タップが発生しやすくなります。
また、カーソルがなくなるため、アイテムにカーソルを合わせている時に表示される詳細を確認する事ができなくなり、武器屋などで困ります。
また、前述したように iPhone / iPod touch には向きません。

双方の操作を簡単に切り替えられるボタンがあれば良かったのですが・・・
今の時点では、どちらかの欠点には目をつぶるしかないですね。
ただ、操作性は決して悪いという程ではありません

Wizardry外伝 ~戦闘の監獄~

価格は 3200 円。 iPhone アプリとしては、ハッキリ言って高い!
メジャーなゲームとしては、シュタインズゲートを越えて「最高値」ですね。
これではコアなウィザードリィ・フリーク以外には薦め辛いのですが・・・

ただ、このゲームはこういう表現はヘンかもしれませんが、ちゃんと「ウィザードリィ」しています
魔法名や施設名、武器名などが違うのはやはり不満ですが、それでもこの作品にはウィザードリィらしさが感じられます。
囚われし魂の迷宮」で感じた違和感は、もっと全体的なものだったのでしょうね・・・
私的には、このデキなら 3000 円でも悪くはないと思います。 字が見やすい iPad なら。(iPhone はちと辛い)
「ウィザードリィとしての完成度」はかなり高いです。

問題は、なにせ「ファミコン時代のウィザードリィの再現」といった内容なので・・・
グラフィックやサウンドはパワーアップしているものの、「思い出補正」がないと辛いことは否めません
最近のゲームしか知らない方だと、ダンジョンの背景が流れ、顔グラフィックがあり、魔法の派手なエフェクトが存在する「囚われし魂の迷宮」の方が良いかもしれませんね。
ただゲーム性に関しては、「戦闘の監獄」も「囚われし魂の迷宮」も、最近の RPG しか知らない方には辛いバランスですが・・・

ともあれ、無料で地下2階まで遊べる体験版が公開されているので、そちらで試してみるのが良いでしょう。
(ただし無料版のデータを有料版に移行する事はできません)

原作を知っている方なら「ウィザードリィらしさ」がよく出ているのが解ると思いますし、ウィザードリィを知らない方でもどういうゲームか理解できるはずです。
その上で自分に合うのかどうか、継続的に楽しめるのか、判断するのが良いでしょう。

Wizardry外伝 ~戦闘の監獄~ (iTunes が起動します)
Wizardry外伝 ~戦闘の監獄~ Lite (無料体験版です)