小説の中に様々な「選択」が存在し、それによってストーリーが分岐する変わった書籍「ゲームブック」。
そのゲームブック風の、ちょっと変わった小説集がスクエニより公開されています。
アナタ図書館」です。

販売はスクエニですが、開発したのは iNiS(イニス)というメーカーで、ここはかつて DS で大ヒットした音楽ゲーム「押忍!闘え!応援団」の開発元として知られています。
「ゲームブック」として紹介されていますが、実際には本格的なゲームブックほど分岐が多い訳ではありません
分岐は頻繁に挿入される「ミニゲーム」の結果によって決まり、また1つの話が短いため、短編小説集といった感じですね。

よって先日発売された iグレイルクエストⅠ・Ⅱ のようなゲームブックらしいゲームブックではないので、その点はご注意下さい。

アナタ図書館

プレイヤー(と言うか読者)は開始前に自分の名前や、身近にいる人の名前を入力します
ストーリーには「ラブストーリー編」や「ファンタジー編」、「刑事&探偵編」や「スクールライフ編」など9つのものがあり、それぞれ完全に独立していますが、話の中に出てくる主人公や登場人物の名前は登録した名前に置き換えられます。

電子書籍としての性能は簡易的で、オプションで文字サイズは変更できますが、他に目立った機能はなく、ページめくりのアニメーションもなく、横にスライドするだけ。
見劣り感のするインターフェイスですが、文章自体は見やすく表示されています。

読み進めていると頻繁に「ミニゲーム」が入って来ます
これは文字探しや物探し、迷路などがあり、どれも簡易的ではありますが種類は豊富です。
ミニゲームの結果によっては BAD END になる場合もあります。
(例えば時間内に物を見つけられなかったとか、迷路で違う出口に入った場合など)

ゲームブックらしく「サイコロ」を振って、特定の目が出ないと進めないという場面もあります。
しかし一般的なゲームブックのような戦闘はなく、アイテムやステータスなどの要素もありません。
あくまで「小説に簡単なミニゲームが入っている」という程度ですね。
分岐もストーリー分岐と言うより、「成功かゲームオーバーか」の二択です。

前述したようにストーリーは 10 ~ 20 分程度で終わります
小説として本格的なものではなく、「ヒマ潰し」程度のものですが、そのぶん移動中に気楽に読めそうです。

アナタ図書館
※左は名前の入力画面。 ストーリーごとに登場人物の数が異なるので、登録名が足りない場合は追加していくことになります。
右はダンジョンのミニゲーム。 それほど広くなく、ちょっとしたアクセントに過ぎない感じですね。


この「アナタ図書館」、冒頭だけは引き付けられる雰囲気があるのですが・・・
各ストーリーの内容は、素人が書いた、ありきたりで面白みがない、文章表現にも何の特徴もない、読んでて何も感じられない、ガッカリな内容です。
プロはもちろん、同人レベルでさえなく、携帯小説でも今時ここまで酷くないんじゃないか? と言いたくなるぐらい稚拙なストーリーを読ませられます

しかも登場人物の名前が登録した自分や知人の名前になりますが、性格設定などはなく、単に名前を入れ替えているだけで、おまけに選択による分岐も少ないため、「絶対こんなこと言わないだろ」「そんな行動しねーよ」「どうして○○がこういう役なんだよ」と思う内容が連発され、違和感ありまくり
それが面白みのない文章と相まって、もう読むに耐えません

ショートストーリーですから物語に深みもなく、早急な展開のままあっさり終わり、読み終わって「時間を無駄にした」感がすごいです。

しかも本体は無料なのですが、無料のままでは「ラブストーリー編」の1つしか読めません。
そして他のストーリーはそれぞれ個別に 350 円の有料課金が必要になります。

課金用の本には3つの「巻」があり、1つの巻に3つの「章」があるため、合計9つの話が入っているのですが、それでもこの内容だと 350 円は明らかに高いです。
これ買うんだったらそのお金で普通の本や電子書籍を買った方が遥かにマシです。 いやホント。

アナタ図書館
※1つ1つが 350 円。 しかしボリュームと内容を考えるとそんな金を払うレベルじゃない。 書店でテキトーな文庫本を買った方がまだいいです。
「刑事&探偵編」には若干の謎解きを期待したけど、すぐ読み終わるようなショートストーリーにそんなの期待する方が間違ってました。
最近アレなゲームが多かったけど、これはその中でも飛び抜けています。 アレを越える逸品にこんなに早く出会うことになろうとは・・・


「名前を共有する電子書籍の詰め合わせ」というのは、コンセプトとしてはユニークかもしれません。
しかしその小説自体がよく出来ていないとお話にならないですね。
コンセプトだけ優先して、肝心な部分がスカスカってのはアレの典型です。
それに主人公やヒロインの名前を入力するというのも、ノベルゲームとしてはありきたりです。

これでも個人作成のフリーアプリならまだ解るのですが、れっきとしたゲームメーカーが開発したアプリですからねぇ。
スクエニもこれで「1冊 350 円でバリバリ売れちゃうぜ~!」なんて思ったのでしょうか・・・?
一方で、もっとマシなミニゲーム付きの電子書籍系アプリである Imaginary Range を無料で配っているのですから、価格設定が色々おかしい。

と言う訳で、まるでオススメできないのですが、でも無料で1話読めますから、ぜひ試してみるのをオススメします
その1話だけでも「どれだけクソゲーなのか」「どれだけダメ小説なのか」が解りますから、「気軽に踏める地雷」としての希少価値があると思います。
多くの人はこの1話を読んだ時点で課金しようとは思わなくなるでしょうから、その意味では良心的だと言えますね。

アナタ図書館 (iTunes が起動します)