※このアプリは iOS8 以後、不具合が発生しており、現在は iTunes から削除されています。

1980 年代中期、ほんの数年だけ、しかし爆発的に流行した、プレイヤー自身が行動を選択するアドベンチャーゲーム形式の小説「ゲームブック」。
そのゲームブックを「iグレイルクエスト」で iPhone / iPad に蘇らせた Faith が、新しいゲームブックアプリを公開しました。
展覧会の絵」です。

組曲「展覧会の絵」をモチーフにした作品で、公開されたのはゲームブックのブームが終息しつつあった 1987 年。
ゲームブックは元々 TRPG(テーブルトーク RPG)を書籍化したものであるため、戦闘やそれに関連したステータスがあるのが普通でしたが、この「展覧会の絵」には RPG らしい戦闘はありません。
アイテムやステータスはあるものの、旧来のゲームブックとはまったく趣の異なる異端の作品です。
しかしゲームブック史上に残る名作の1つと言われていて、私も読んだことはなかったのですが、その名前は聞いたことがありました。

ちゃんとゲームブックの形式にはなっていますが、1つの文芸作品と言えますね。
なお、ゲームブックとは「選択肢のある小説」で、選択に応じて読むページ(パラグラフ、段落)が変わります。
実際のゲームブックはその都度ページをめくって段落を探す必要がありましたが、電子書籍ですからページの移動は自動で行われます。

展覧会の絵

主人公は記憶を無くした吟遊詩人です。
市場で見つけた絵画の世界に入り込み、「プロムナード」と呼ばれる通路を通りながら、全く異なるモチーフの 10 の絵の世界を旅します

様々な世界の旅の中で、主人公は「宝石」を見つけていきます。
宝石は 12 個存在し、これを集めて「鶏の足の上に建つ小屋」の魔女に会うことが旅の目的となるのですが、この宝石は全部集まってなくてもラストに辿り着くことは可能です。
しかし各所を探索し、出来るだけ集めておいた方が良いのは言うまでもありません。

このゲームブックには前述したように RPG 風の戦闘はありませんが、冒険の途中で様々な困難や敵に出くわします。
この時、主人公は持っている琴で「魔法の旋律」を奏で、それを切り抜けます
旋律には「戦いの旋律」「魔除けの旋律」「和解の旋律」があり、例えば戦いの旋律を弾くと敵を撃退することができ、和解の旋律を弾くと相手の怒りを静めて会話することが出来ます。
通常、これらを使う時にサイコロを振ってダメージを算出したりすることはありません。
敵によって効く効かないがありますが、有効な旋律なら必ず効果が発揮されます。

ただし、1度奏でるごとにその旋律の使用回数が1つ減っていきます
残りの回数が0になれば使用できなくなり、もし特定の旋律を使わないと切り抜けられない状況で、その旋律が使えない場合は旅はそこで終わりとなります
また、ゲーム開始時に決めた特定の旋律の残り回数が0になった時も、その時点で琴が壊れ、旅は続行できなくなります。

つまり、旋律の残り回数はそのまま HP も表している事になります。
旋律を使える回数にはそれほど余裕がないため、どうやり繰りしていくかがポイントになりますね。

サイコロを使う場面もありますが、戦闘ではなく、何かが起こったときの回避や運の判定に使われます
体力に相当するものが無いので、判定などで失敗した時のペナルティーは旋律の残り回数が減るか、見つかるはずのものが見つからないか、何らかのアイテムを無くすなどの形になります。

展覧会の絵
※ 左はサイコロの画面。 転がるようなアニメーションはなく、スロットのような感じなのがやや残念ですが、全体の操作感は良好です。
右の画像はステータスシート。 RPG ではないので簡潔です。 「宝石を出来るだけ集めるが、全部集めなくても目的地に向かうことは出来る」というのは、ロマンシング・サガを彷彿とさせますね。 吟遊詩人も出るし。


電子書籍としての機能ですが、ページめくりはタップかスライドで行います。
ページをめくるアニメーションはなく、ページ全体が横にスライドしていく形なのはやや残念ですが、文字サイズは自由に変更可能で、小説としては非常に読みやすいですね。

別のページ(パラグラフ)に移動するときは、そのパラグラフの表示を直接タップします。
ただし移動する条件が整っていないパラグラフのボタンは灰色で表示され、タップしても反応しなくなっています
これにより、例えばアイテムの有無で移動先が変わる場合などに、条件に合った選択を見た目で簡単に判別する事ができます。

ブックマーク(しおり)は 10 も保存が可能で、これはつまり 10 ヶ所にセーブできる事を意味します。
さらにこのゲームは画面下部に「前へ」というボタンが付いていて、これを押すと即座に前のパラグラフに戻ることが出来ます。
例えば選択で誤ったものを選んでしまい、ペナルティーを受けるような状況になって「あっ、ヤベェ」と思っても、このボタンを押せばすぐ直前にバック出来ます。
移動してきた順番が保存されているため、「前へ」のボタンでかなり前まで連続で戻ることも可能です。

つまり、ゲームブックで前のページに指を挟んでおき、選択がヤバそうだったら即座に戻ってやり直す「魔法の指」をいつでも簡単に実行可能ですw
ちゃんと減った旋律の使用回数やアイテムなども、戻った地点に応じて復元されます。

ただ、この作品はそれほど頻繁に戻らなければならないような展開にはなりません。
なぜなら「即死トラップ」がないからです。
このメーカーの1つの前のゲームブック「グレイルクエスト」は即死トラップてんこ盛りで、ひたすら死にまくりながら対処法を学んでいくゲームでしたが、こちらはゲームオーバーになるのはあくまで「旋律が無くなって状況を切り抜けられなくなった時」だけであり、選択や判定のミスだけですぐ終了というような事はありません。
この点は、「グレイルクエスト」とはまったく違う内容のゲームブックを提供しようという意図があるのだと思います。

演出に関しては、グレイルクエストにあったような「ページが燃える」というような表現はなく、戦闘シーンもないので、やや地味になっている印象もあります。
しかし内容が内容なので、あえて素朴にまとめているのかもしれません。 また名曲をモチーフにしている作品らしく、常に BGM が流れています
ゲームブックに BGM があるのはちょっと異質で、これのおかげでアドベンチャーゲームっぽさがありますね。

展覧会の絵
※左の画像の 202 のボタンは灰色になっていて押せなくなっています。 これはこのシーンに「一度入った場所はもう入れなくなる」というルールがあるため。
見た目でそれが簡単に判別できるのでプレイしやすいですね。
右は移動先を情報に基づいて入力するシーン。 ゲームブックではおなじみのしかけです。
 

定価は 500 円。 電子書籍1冊分と考えると、こんなものでしょうか。
短編小説といった感じですが、名作と言われるだけある、爽やかな気持ちになれる作品です。

「前へ」機能が強力でお手軽過ぎることもあり、割とあっさりクリア出来ると思いますが、これはこれでストレスなく遊べますし、12 の誕生石を全部集めて完全クリアしようとしたら相応に探索が必要になります。
(なお、全くズルせずにプレイした場合はかなり難易度が高いです。 っていうかサイコロ運が絡みます)

ゲームブック最後期の作品なのでご存じない方も多いと思うのですが、ゲームブックを知っていてこの作品を知らない方には、特にオススメしたいですね。
もちろんゲームブックを知らない方でも、ちょっと風変わりな小説として楽しめます。
スマホやタブレットとゲームブックの相性の良さを、改めて感じるアプリですね。

・展覧会の絵 (iTunes が起動、iPhone / iPad 両対応) ※公開終了