並み居る敵をバッサバッサと斬り倒す、大人気の一騎当千アクションゲームシリーズ「三国無双」。
国内外を問わず非常に人気の高い、コーエーの代表作の1つです。

そんな三国無双シリーズをスマホで展開するという、新しい作品の開発発表が行われたのが昨年の9月、「東京ゲームショウ2012」の講演会場です。

しかし、それは「ソーシャルゲーム」。
この時点でファンからは大ブーイングが起こった訳ですが、それでもパソコンの「真・三国無双 Online」を担当している方がプロデューサーを務めていることや、スマホ専用アプリ(ネイティブアプリ)として開発されていること、「一騎当千の爽快感をスマートフォンへ」というコメントがあった事などから、期待する声も少なからず上がっていました。

しかし年明け、満を持して公開された「真・三國無双 SLASH」の内容は、狙う相手をタップするだけで自動で攻撃が行われるという、アクション要素も爽快感も皆無な「無双」とは名ばかりのシンプルなもの
さらに戦闘シーン以外に至っては、旧来のガラケーブラウザのままの古くさいソーシャルゲームであり、三国無双ファンの期待を完膚無きまでにぶち壊すものとなっていました。

プレイヤーのレビューにも悲壮感が漂っていて、さらに通信不良で悲鳴が巻き起こり、公開と同時に旧来のファンをガッカリさせたアプリと言えます。
三国無双がこんなに見え見えの孔明の罠になったことは、ゲーム史に残る事件だと言えるでしょう。

・・・という、もはや毎度おなじみになりつつあるテンプレ的オープニングで始まった今回のレビュー。
まあ現在のコーエーはグリーと蜜月の関係だし、コーエーのソーシャルゲームと言えば俗にいう「ポチポチゲー」ばかりなので、当初から嫌な予感しかしていなかったのですが、「予想通り」でしたね。
しかし通常画面がガラケーブラウザのままってのは、さすがに驚きましたが。

真・三國無双 SLASH

戦闘が 3D グラフィックのバトルシーンになっている「ソーシャルゲーム」で、「怪盗ロワイヤル型」と言えますが、従来のソーシャルゲームとはやや異なるタイプです。

この作品には「ミッションの進行度」と言えるものはありません。
プレイヤーが戦闘を行ってポイントを稼ぐことで、その地域の所属勢力の「制圧ポイント」が増えていき、それによって地域の自勢力が優勢になっていきます。
最初は出陣する地域は自動で選ばれますが、レベルがある程度上がると自分で選択できるようになります。
最終的には各地域を所属国の支配下にして、天下統一を目指すのが目標ですね。

この辺りのポイントを争う地域争奪のシステムは、ソーシャルゲームではなくオンラインゲームに近いと言え、「真・三国無双 Online」を担当している方がプロデューサーをしているゲームらしいと言えます。

体力についても、「ミッションを進行させるごとに減っていき、なくなるとミッションが出来なくなる」というものではありません。
ミッションの実施によって減るのは同じですが、それによって「戦闘時の体力が減る」ようになっていて、つまりなくなるとミッションが出来なくなるのではなく、「減っても出陣できるけど戦闘が不利になっていく」というシステムになっています。

カードゲームではないので、ガチャ(SLASH ゲット)はありますが、得られるのはキャラクターではなく武器や防具です。 また、装備は戦闘でも入手できます。
装備は合成でパワーアップさせることが出来ますが、使っていると耐久力が減っていき、尽きると修理が必要になります。
ミッション進行に必要なアイテムに耐久力があるのは、怪盗ロワイヤルのシステムに似ています。

真・三國無双 SLASH
※一般的な「ポチポチゲー」とは違い、任意に各地域のポイントを高めていく戦争の要素があります。
戦場の各拠点にはプレイヤーによって「制圧ポイント」が貯められていき、一定時間ごとに「都市交代判定」が行われ、その際にもっとも制圧ポイントが高い勢力がその拠点を所有します。
そして戦場の過半数の拠点を持っている国が、その地域を支配します。


そして三国無双の要、戦闘シーンですが・・・
機種にもよると思いますが、最新の iPhone なら動きは非常に滑らかで、出現する敵の数も多く、三国無双らしい 3D グラフィックの一騎当千アクションが繰り広げられます。

が、戦闘は冒頭で述べたように、移動先や攻撃相手をタップで指定するだけ
敵兵をタップすると、そちらに自動で向かっていき、自動で武器を振って、自動で倒してくれます。
倒したらまた次の敵をタップして、その繰り返し。

一応、無双らしいアクションは見られます。
しかし思い浮かべてみて下さい。 自分で武器を振らない、ほぼ移動先を指定するだけの三国無双に、爽快感やゲーム性があるのかどうか・・・

攻撃を受ける事は滅多になく、敵武将でさえほとんど攻撃して来ないため、ガードも必要ありません。
ポチポチゲーとまでは言わないし、ソーシャルゲームですから「誰でも勝てるように作る必要がある」ので、こうなるのも仕方がないとは思いますが、これでは旧来の三国無双ファンはガッカリするしかないでしょう

一応画面をフリックするとチャージ攻撃を行えるのですが、そもそもやられることがないので、そうした攻撃の必要性も皆無です。

三国無双と言えば戦況のダイナミックな動きやイベントも面白さだと思いますが、戦闘中に拠点の支配が変わる事はなく、マップの状況は最初から最後まで固定
攻略する(制圧ポイントを稼ぐ)拠点に行き、テキトーに湧いてくる敵兵とザコ武将を倒したら、それで終わりです。
敵大将を倒すとか、敵兵を殲滅するとか、そう言うこともなく終わるので、達成感も薄いです。

真・三國無双 SLASH
※攻撃対象をタップするだけの半自動戦闘。 一応、キャラを押しっぱなしでガード、上フリックでジャンプなどのアクションもあるのですが、使う必要ないです。
カメラは画面下部をスライドすることで動かせ、タップすると進行方向に向きます。
縦画面なので表示範囲が狭く、見辛いのも難点ですが、ソーシャルゲームですから縦持ちでプレイ出来ることを重視しているのでしょうね。
一応、他のプレイヤーが副将として参加してくれる要素がありますが、当然リアルタイムの協力プレイをしている訳ではありません。


私的には、戦闘シーンはともかく、地域争奪のシステムはなかなか面白いと思います。
ただ、準備画面が前述したように古くさいガラケーブラウザ型なので、演出がショボイし、音もないし、これでは激しく見劣りします。
結局的に、ソーシャルシーンも戦闘シーンもかなり残念で、とてもオススメできるような代物ではありません

ただ、グリーのソーシャルゲームとして考えると、こういう作り方がベターなのかなぁ、という気もします

基本的には旧来のグリーユーザーである、コアなソーシャルゲームプレイヤーを対象にしているのでしょうから、そうするとゲーム性はこれで十分かもしれないし、戦闘シーンのグラフィックはそこいらのソーシャルゲームよりはるかに上なので、これはこれで「おおっ、スゲー!」と思われるかもしれません。
そういう人はショボいガラケーブラウザのソーシャル画面も「それが普通」と認識するでしょうから、あまりデメリットにならないかもしれません。
グリーとコーエーにとっては、これで OK という感じでしょうか。

しかしだからこそ、オリジナルの無双シリーズのファンは楽しめるものではないですね
単なる「真・劣化ソーシャル無双」。 結局は「グリーのゲーム」に過ぎません。

同じグリーのゲームでも、コナミと作った「メタルギア ソリッド ソーシャル・オプス」は完全にネイティブアプリ化していて見どころがあったのですが、このゲームはそこまでのレベルではありません。

また、現時点(2013/1)の話ですが、サーバーが混雑しているのか、通信回りが洗練されていないのか、やたら反応が重くアクセス不良も多発しています
iTunes レビューでも悲鳴が上がりまくっており、初回起動時にファイルのダウンロードを行うのですが、それが全然進まない方も多いようです。
先日サーバーが増強されたようですが、14日の現時点でもアクセス不良が多発していて、初動でコケている印象です。

GREE って通信品質にはかなり厳しく、通信不良が多発するとすぐ担当者のクビが飛ぶとか聞いたのですが・・・ これはちょっと、担当者がシャレにならなさそうなレベルですね。

真・三國無双 SLASH
※グリーおなじみの「11連ガチャ」が当然のようにあるガチャ画面。 ただ、この作品では「ガチャ」という単語は使われていません。
正直、ガチャが装備では収集意欲を感じません。 これでガチャする人いるのかな・・・?
前述したように敵が弱く、他プレイヤーと戦う訳でもないから、強い装備の必要性をまったく感じないし。
そもそもコアなソーシャルゲームのユーザーはこの戦闘シーンは面倒と思うんじゃないだろうか?
でも無双ファンにはもの足りなさすぎるし、ターゲットは一体どこなんだろう・・・?


本体は無料。 課金は当然ありますが、しばらくプレイしても戦闘で苦戦したことがなく、無理にガチャ装備を得なくても進めていくことが出来ます。
体力もあまり減らないので、無課金でも長時間連続してプレイし続けられます。
よってソーシャルゲームとは言え、それほどお金がかかるものではない印象ですね。
ただ、ゲームが面白いと思えるかどうかは別ですが。

ソーシャルゲームは今年に入って早々、転機を迎えています。
消費者庁が「インターネット上の取引と『カード合わせ』に関するQ&A(PDF)」という、ソーシャルゲームのコンプガチャやカード取引に関する「違法行為かどうかの判断例」を発表、業界全体に警告を発しています。

このような事になったのは、昨年グリーが「未成年者の高額課金を制限します」と言っておきながら、実は内部的には制限しておらず、消費者相談センターへの問い合わせも続いていて、結局それがバレて関係省庁が「いい加減にしろテメー」となった影響もあるようです。

(参考資料:日経新聞 1/10 記事 より。「グリーは2012年4月から9月にかけて、独自に設定した未成年者への課金上限を超えて733人に約2800万円を超過課金していた。この事実を数カ月にわたって公表せず、外部の指摘を受けて2013年1月7日になってから公表するという事態もあった」)
(なお、DeNA は未成年者への課金上限は守っていた模様です)


※ 1/21 追記
上記の件の続報です。 ミスなのか故意なのかは不明ですが、前述の「未成年者への超過課金」の人数と金額が大幅に間違っていた、という発表が GREE から行われています。
実際には2012年4月から2013年1月までの期間に、未成年者5544人に約4900万円の超過課金をしていた事実があったと、改めて公表されました。(参考資料:日経新聞 1/18 記事ITmedia 1/21 記事


今回の消費者庁の発表は、「今後モラル違反があったらすぐしょっ引けるようにした」ものだと思われ、いよいよ今年から本格的な監視が始まるものと思われます。
グリーやモバゲー、さらにソーシャルゲームに関わる各メーカーは、その方針が変わってくるかもしれませんね。

やや話が逸れましたが、私は「信長の野望」や「三国志」などの光栄の歴史シミュレーションゲームをプレイし続けてきた人間であり、かつて光栄は歴史ゲームによる好影響を評価されていたメーカーでもあったので、それが青少年への悪影響とモラルの崩壊を懸念されているソーシャルゲーム中心のメーカーになってしまったことは、残念でなりません。

この「真・三國無双 SLASH」に関しても、もうちょっと(普通に三國無双としてプレイできた)「真・三國無双 Online」に近いのかと思ったら、ぜんぜん別物で、正直言ってガッカリです。

無双シリーズに関しては、「真・北斗無双」が好評だし、2月には「真・三国無双7」も出るので、本家が廃れたりヘンな方向に行くようなことはないと思われ、その点では安心できそうですが・・・
でも、スマホでちゃんとした無双が楽しめることは、望み薄かも。

真・三國無双 SLASH (iTunes が起動します)