「アナログゲーム」や「ウォーゲーム」と呼ばれる、ボードゲームの戦術シミュレーションゲームを再現したアプリは iOS にはいくつかありますが、第二次世界大戦の「バルジの戦い」(アルデンヌ攻勢)をテーマにしたクオリティの高いアプリが登場しています。
「Battle of the Bulge」です。
このゲームは iPad 専用ではありますが、ボードゲームをテーマにしたアプリとしては演出に優れ、史実の映像を交えたオープニングなどもあり、かなり作り込まれています。
内容がウォーボードゲームなので、ドイツゲームと違って万人向けという訳ではありませんが、戦略 / 戦術 SLG が好きな人なら楽しめる作品ですね。
※2013年10月のアップデートで iPhone / iPod touch にも対応しました。
また、文章の日本語化も行われています。
開発したのはアメリカの新興メーカーですが、連合軍でも枢軸軍でもプレイ可能になっています。
むしろドイツが行った作戦ですから、ドイツ側がメインと言えますね。
簡単に史実の「バルジの戦い」について説明すると・・・ この戦いはドイツが戦争末期に行った、最後の反攻作戦です。
第二次世界大戦でドイツは当初こそ「オレツエー」していたものの、イギリスに苦戦してソ連も倒しきれず、アメリカが参戦してからは周囲からフルボッコ。
ヘタリアが頼りにならず、東西から追い詰められ、いよいよドイツの本国がヤバくなったところで行ったのが、この反撃です。
「機甲師団では突破不可能」と言われていた、その割には突破されまくっている「アルデンヌの森」を突破して、連合軍に奇襲をしかけ、その向こうにある「ミューズ川」を渡り、敵に占領された港を奪還しようとした作戦でしたが、連合軍の援軍が殺到してきて数日で止められ、手前の第二目標「バストーニュ」さえ押さえられず、偽装作戦「なんちゃってアメリカ軍」もすぐにバレて、最後はガス欠と空爆と数の暴力でボコボコにされました。
このゲームは、このアルデンヌにおける一連の状況をそのままボード上で再現する形で進行します。
つまり普通にやると、ドイツフルボッコです。
ゲームの基本システムは「ターン制の戦術シミュレーションゲーム」です。
マップは不定形のマスで区切られていて、配置されたユニットを自分のターンに動かし、敵がいなければ土地を占領、敵がいたら戦闘になるという形式ですね。
ただちょっと変わっているのは、自分のターンに全てのユニットを動かせる訳ではなく、また1つだけしか動かせない訳でもなく、1つの土地にいるユニットをまとめて動かせること。
1つの土地には最大3つのユニットを置くことができるので、そこに3つのユニットがあるなら3つとも動かせ、1つしかなければその1つしか動かせません。
移動先はユニットごとにバラバラでも構いません。
動かしたらそのユニットは「行動終了」となり、さらに自分のターンも終わります。
双方がターンを終えるごとに「時間」が経過し、日没になるか、双方とも動かすユニットがなくなってパスすると、その日は終了。
次の日になるとユニットは全て行動できるようになり、以後はこの繰り返しです。
ユニットは強くて速い「戦車」、弱くて遅い「歩兵」、弱いけど速い「自動車化歩兵」の3種類があり、さらに部隊マークが付いたエリート部隊が存在します。
戦車や自動車は道に沿って2~3マス動け、さらに戦車は敵を撃破すると追加移動が可能です。
ただ重要なルールとして「補給路」があります。
ドイツはマップ右端、アメリカはマップ左・上・下の外周と繋がっていない土地には、補給が届きません。
補給は毎日最初のターンに行われますが、補給を得られない土地の部隊は「補給不足」マークが付きます。
補給不足だと移動が行えなくなり、攻撃された時の反撃はできますが、命中率が低下、さらに相手の命中率がアップします。
さらに補給不足の状態が2日続くと Isolated (孤立無援)となり、反撃不可、さらに回避力も大幅低下します。
※補給状態を色分けするマップにしたところ。 赤い土地の連合軍は補給を得られない状態。
この状態で翌朝になると「補給不足」のマークが付きます。 翌朝になるまではまだ元気なので注意。
交戦地域は縞模様ですが、ここは防御側の補給路が優先されます。
連合軍は上下の外周からも補給路が繋がりますが、ドイツは繋がりません。 ズルい。
※赤い矢印の部隊は「孤立無援」の状態。 こうなった部隊はモロくなって容易に倒せるのですが・・・
敵は孤立した部隊を救出しようとするので、それを逆手にとって待ち伏せる手も。
黄色の矢印は「ガス欠」アイコン。 これは日数が経過すると、ドイツの機甲部隊に「ランダムで」付きます。
付いたら動けないので、進軍はあきらめるしかないですね・・・
同じ土地に敵と味方のユニットが双方いると戦闘になります。
戦闘前には、関係する地形効果や補助効果、さらに結果予想が表示されます。
移動の決定や戦闘の開始は右上にある「Commit」のボタンを押しますが、左上には「Undo」のボタンがあって、これでいつでもやり直しが可能です。
移動して戦闘予想を確認し、ヤバそうだったら Undo でやめる、という事も可能です。
Commit(命令)すると戦闘ウィンドウが開いてドンパチが始まります。
撃ち合う効果音が流れ、被弾した障害物やユニットには穴が開き、破壊されると爆発が生じます。
この辺の演出はボードゲームアプリの割にはなかなか凝っていて、ちゃんとゲームらしいですね。
※戦闘予想画面。 一番下に受けるダメージの予想が表示されていて、もっとも確率が高いものは太字で表記されます。
以下は予想画面に書かれているアイコンの意味です。
奇襲:ドイツ軍の初日のみ発生。命中+10%。
砲撃:ドイツ軍のマップ右端付近の戦闘で発生。命中+10%。
エリート:エリート戦車が攻撃側にいると命中+10%。
無補給:相手が無補給状態なら命中+10%。
孤立:相手が孤立状態なら命中+20%。
平地:平地の戦闘は双方が命中+10%。
装甲:相手に戦車が含まれていると命中-10%。
敵エリート:エリート歩兵が防御側に含まれていると攻撃側の命中-10%。
渡河:相手が渡河してきた場合は防御側の命中+10%。
空爆:連合軍の23日目以降から発生し命中+10%。
防御側は林と家が1回、森とトーチカが2回、ダメージを肩代わりします。
基本の命中率は戦車40%、歩兵30%です。
戦ってみると解りますが、このゲームは防御側が大幅に有利です。
防御側は攻撃を受け止めてくれる木や建物を利用できるため、ダメージを軽減できます。
さらにマスの間に川が流れている場合、攻撃側は1ユニットしか渡ることができず、戦闘でもマイナス修正が付きます。
(マスの間に川があるかどうかは、画面を押しっぱなしにすると判別しやすくなります)
しかしドイツ軍は進攻側ですから攻めない訳にはいかず、これが枢軸側の難易度を大幅に上げています。
逆に連合軍は時間が経つほど援軍がどんどんやってきて有利になり、さらに時間の経過に伴って「ドイツの燃料不足」「連合軍の空爆開始」などの有利なイベントが起きるため、防衛戦をしていれば状況はどんどん好転していきます。
よってドイツをメインにして作られているゲームですが、慣れないうちは連合でやった方が良いかもしれませんね。
※一日終了するごとに作戦の説明やレポートなどが表示されます。
この時の BGM が電波の入りの悪いラジオの曲になっていて、すごく雰囲気があって良いです。
上記の画像は、ドイツ軍が砲撃支援を受けられる範囲を示しています。
上にあるバーグラフのようなものは、左側のラインが勝利点の下限値、右側のラインが勝利点の上限値、中央のラインは勝利点の現在値。
上限と下限は日ごとに変化し、下限以下になると敗北、上限以上になると勝利です。
勝利点は画面左上の Undo ボタンの下に書いてあります。
※こちらは援軍到着のお知らせ。 到着場所が敵に占領されている場合、別の場所に迂回し、到着が遅れます。
また 20 日以降は回復を少しだけ行えます。 ダメージを受けているユニットをタップして、右上の Commit を押して下さい。
回復対象が歩兵か車両かは日ごとに違います。
ドイツはちょっとしか回復できませんが、連合軍は多めに回復できます。 ドイツ辛すぎ。
ゲームのシナリオは5つ用意されていますが、メインとなるのはゲーム名でもある「Battle of the Bulge」です。
このシナリオはマップ左上の「ミューズ川」の先にある水色のエリアに、4日以内(19日の日没まで)に部隊を進入させると、その時点で勝利になります。
それが達成できなかった場合は、普通に勝利点での勝利を目指します。
勝利点は敵を撃破すると増加、やられると減少、さらに VP と書かれた都市を占領していると日没ごとに増えていきます。
勝利点は敗北条件にもなっていて、下限値以下になると敗北です。
しかも下限値は 22 日になるまでどんどん増えていくので、ただ守っているだけでは負けてしまいます。
超えると勝利になる上限値もどんどん増えていきますが、24 日からは戦いが辛くなるためか下がっていきます。
最終日は 28 日で、この日の終了時に勝利点 25 以上なら勝利、24 以下だと敗北です。
ドイツ軍の最初の勝利条件である「ミューズ川の渡河」は、ボードゲームらしい勝利条件ではありますが、方法さえ解ってしまえば簡単に達成できてしまいます。
数日で終わってしまいますし、まともな戦闘が起こらないのでゲームとしてはつまらないです。
戦術シミュレーションゲームとしては、正面から戦って勝利点で勝つのを目指したいですね。
シナリオは他に、3日でミューズ川に隣接するのを目指す「Race to the Meuse」、勝利条件が勝利点のみで必ず最終日までゲームをする「Bitter End」、初期ユニットの配置がシャッフルされる「Luck of the Draw」、史実の 21 日目の状態からスタートする「The Endgame」があります。
なお、勝敗が決してもゲームはそのまま続ける事が可能です。
しかし負けた後にそのまま続けて逆転勝利しても、Game Center の実績は獲得できません。
※左上の太い水色で書いている部分が「ミューズ川」。 ここを4日以内に超えるには、戦車部隊をほぼノンストップで走らせないといけません。
でもだからこそ、超える方法は限られている訳で、それを見つけるのはそんなに難しくはないはず・・・
価格は 850 円と高め。 ただボードゲームアプリとしてはクオリティーは高いです。
シナリオの一部は 350 円の追加課金が必要なのでご注意下さい。
まあメインシナリオの Battle of the Bulge だけでも、そう簡単には勝てないので問題はないでしょう。
※2015 年時点では Apple の価格改定の影響で 1200 円です。
細かいルールが多く、システムがやや複雑で、ゲームも非常に難しいため、万人に勧められるゲームではありません。
特にドイツ軍はそれでなくても多勢に無勢になっていくのに、攻めないといけないわ、回復が少ないわ、ガス欠が起こるわ、空爆は受けるわで、史実の悲惨な状況そのままの厳しさがあります。
でも、だからこそやり応えがあるし、何度もチャレンジしようという気になれますね。
かなり硬派なシミュレーションゲームなので、人を選ぶ内容ですが、私的には好きなゲームです。
・Battle of the Bulge (iTunes が起動)
【 ちょこっと攻略 】
ゲームのスケジュールを乗せておくので、プレイされる方は参考にして下さい。
12月16日:ドイツ軍が奇襲。 最初の3ターンはずっとドイツのターン。 ただし機甲師団はその間は動けない。 連合軍の歩兵はこの日は動けない。
12月17日~19日:1回だけ、指定の連合軍部隊の移動を妨害できる。(ニセアメリカ軍による混乱)
12月19日:この日の終わりまでに Meuse 川を渡河できないと、渡河による勝利はなくなる。
12月20日:この日から開始時にユニットの回復を行える。
12月21日:この日からドイツ軍の機甲師団が毎日1つ「ガス欠」になる。
12月22日:イギリス軍部隊(茶色)が登場。
12月23日:この日から天候回復。 連合軍に空爆支援が付く。 連合軍からターンが始まる。 連合軍は孤立無援にならない。 ドイツ軍は占領地でも車両が3マス動けない。
12月26日:この日からドイツ軍の機甲師団が毎日2つ「ガス欠」になる。
12月28日:最終日
・シリーズ2作目:Drive on Moscow(モスクワ攻略戦)
・シリーズ3作目:Desert Fox(エルアラメインの戦い)
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