イギリスの放送局 BBC が企画し、ストラテジーゲーム(戦略ゲーム)で定評のあるメーカーが開発を担当、兵器や戦場の監修を軍事史の専門家が行っているという、第二次世界大戦をテーマにした、リアルな戦闘がウリのターン制戦術シミュレーションゲームが iPad で発売されています。
Battle Academy」です。

元は 2010 年に発売されたパソコン用のゲームで、海外での評価は非常に高いのですが・・・
戦闘がリアルな反面、ゲームとしてはかなりとっつき辛く、とても一般にお勧めできるゲームではありません。
前述の高評価も、こういうゲームをやる人は軍事マニア・歴史マニアなので、それを差し引いて考えた方が良いでしょう。

価格も 1700 円とかなり高額で、そのため 2012 年の2月に発売されていたのですが、さすがに私も手が出ませんでした。 おまけに iPad 専用です。

ただ、個人的に好きなジャンルではあるし、ストラテジーゲームとしての完成度は確かに高いので、今回ご紹介しておきたいと思います。

Battle Academy

フィールドは四角のマスで区切られていて、敵と味方が交互にユニットを動かす、ターン制のシミュレーションゲームです。
ただ、銃撃戦や砲撃戦がメインで、ほぼ全てのユニットが遠距離攻撃可能です。
物陰に身を隠したり、地形を利用して戦うことが重要で、戦闘システムは先日ご紹介した XCOM : Enemy Unknown に似ていますね。

ただ、当時の戦闘を再現した特徴的なルールが多く、それが難易度を上げています。
ルールが日本の大戦略型の戦術シミュレーションゲームとは大きく異なっているので、大戦略やファミコンウォーズなどに慣れていると、かえって戸惑うかもしれません。

まず、移動には高速移動(Move Fast)警戒移動(Hunt)があり、高速移動の方が大きく動けますが、この状態で敵に攻撃されると大ダメージを受け、さらにこの状態からの攻撃は命中が半減します。
敵がいそうな場所で行動する時は、少ししか動けなくても、常に Hunt で警戒しながら進まなければなりません。

また射程内に敵が入ってくると、防御側は自動で射撃を行います
この自動射撃は弾数が残っていれば、敵が射程内で1マス動くたびに発生します。
このルールのため「待ち伏せ」が有効で、逆に敵がいそうな場所に不用意に踏み込んだらバンバン撃たれます。
なお、弾数(攻撃回数)は毎ターン自動で回復します。

歩兵の場合、地形に隠れる事が可能で、建物や森の中に入ると敵に見つかりません。
攻撃したり、敵歩兵が索敵を行うと見つかる場合がありますが、次のターンになればまた隠れられます。
もちろん建物や森の中にいれば回避率も上がります。

ただし攻撃には地形攻撃(Suppress Area)があり、隠れていても戦車とかに居場所をドカドカ撃たれていると、いずれやられてしまいます。
歩兵は2人~5人で編成されていて、ダメージを受けると人数が減り、これがそのまま HP と言えます。

一方、車両には HP がありません。
このゲームの車両は装甲を貫通されると一撃で破壊されますが、被弾しても貫通されなければ無傷です。
実際の戦車戦を模したシステムになっている訳ですが、日本では困惑する人が多いでしょうね。

このシステムのため、歩兵がいくら機銃を撃とうと戦車は痛くもかゆくもなく、装甲のある重戦車は貫通力のない軽戦車に撃たれまくっても、ほとんどの砲弾を跳ね返せます。

ただ、歩兵も近くのマスには手榴弾を投げられるので、戦い方によっては戦車を倒せることもあります。
強力な重戦車も側面や背後は弱いので、その方向から近距離射撃を行えば撃破は可能です。

イギリス BBC のゲームであるため、プレイヤーは連合軍(アメリカ、イギリス等)しか担当できないのですが、基本的に戦車はドイツの方が強いです。
正面から撃ち合って勝てるゲームではないので、待ち伏せや回り込みを駆使しながら戦うのが基本ですね。

他にも遠距離砲撃ユニットや、火炎放射歩兵、ロケット弾など、当時実在した様々な兵器が史実通りの設定で登場します。
航空ユニットはありませんが、ステージによっては数ターンごとに爆撃支援を受けられます。

Battle Academy
※味方のアメリカ戦車 M4 シャーマンが、ドイツの V号戦車パンターに出くわしたシーン。
攻撃命中率は 29 %ですが、貫通率は 0 %。 よって撃破率は 0 %。
うん、勝てない。 アヒルとヒョウが戦うぐらい勝てない。
ティーガーやパンターに出くわしたアメリカ兵の絶望感を体験できるゲームです。


Battle Academy
※と言う訳で、勝つ方法は待ち伏せとか奇襲とかの卑怯な戦法になります。
これは脇道に隠れていた M10 対戦車自走砲が背後からパンターに近づいて、一撃加えようとしているシーン。
これなら命中率 67 %、貫通率 100 %。 よって撃破率 67 %。 2回砲撃出来るので、ほぼ撃破可能。
こういう市街地戦だと、もうゲームは「かくれんぼ」になりますね。


さらにこのゲームの特徴は、攻撃を受けると制圧(Suppressed)撤退(Retreating)などの状態異常が発生する場合があること。

制圧(Suppressed)は攻撃やダメージを受け続けてモラル(Morale)が低下すると発生するもので、部隊の統制が取れていない状態であり、しばらく攻撃不可能になって、移動力も大幅に低下します

前述したように待ち伏せている敵には不用意に近づけないのですが、例えば建物にいる歩兵に戦車砲を撃ち込みまくり、相手を制圧している状態にすれば、反撃を受けずに歩兵を接近させられ、さらにそのまま突撃(Assault)で高確率で撃破することが可能です。

撤退(Retreating)は部隊が勝手に後退してしまうもので、これも攻撃されまくっているとよく発生します。
これらの状態異常によって、恐怖に駆られた混乱や逃走が起こるリアルな戦闘が再現されています。

Battle Academy
※砂漠の防衛陣地で突っ込んで来るドイツ軍を撃退するシナリオ。
制圧(Suppressed)を敵の各部隊に発生させ、こちらに接近されないようにすることが重要。
隠れている部隊は攻撃すると見つかってしまうので(Spotted)、不用意に撃たない方が良いことも。
こちらも撃たれまくっていると壊乱する場合があるので、トーチカで守るステージは、そういう時に入れ替えるための兵士を控えさせておく方が無難です。


Battle Academy
※ステージ開始前には、こんなコミック風のシナリオ説明があります。
文章は英語ですが、第二次世界大戦に相応に詳しい人なら、どの場面かだいたい解るはず・・・?
シナリオは最初から全て自由に選ぶことができます。

Battle Academy
※ステージ開始時には追加ユニットの選択画面が表示されます。
一定のポイントが与えられ、そのポイント内で部隊に加えるユニットを選ぶことができます。
ステージによっては、部隊の初期配置を自由に変更できる場合もあります。
難易度は3段階用意されていて、いつでも変更可能。
一番上が本来の難易度で、真ん中はショットの命中と貫通がアップ。 一番下は移動による命中低下のペナルティを受けないハンデが付きます。


グラフィックのクオリティーは相応に高く、効果音もリアル。
ルールは取っ付き辛いですが、理解できれば戦闘シーンは十分に楽しめます

ただ、ゲームとして残念なのは・・・ 長期的にユニットを育てるとか、戦闘の結果によって戦局が左右されるシナリオがあるとか、様々なユニットで部隊を編成する楽しさとか、そう言ったものが何もないこと。
「アドバンスド大戦略」や「スーパーロボット大戦」のような、シミュレーション RPG 的な収集や育成は一切ありません
XCOM : EU のような開発要素やストーリー性もありません。

各シナリオは複数のステージで構成されていますが、最初から全ステージを好きなように選べるし、複数の勝利条件を満たすことでクリア評価の「★」を多く獲得できますが、それが貯まったからといって部隊や将軍が強化されるような要素もありません。
また、難易度を変えても得られる★は変わりません。

「エンディング目指して戦っていく」みたいな形ではなく、ボードゲームのように1戦1戦を楽しむゲームですが、これでは物足りないのが本音ですね。

ゲームシステム的に気になるのは、運の要素がやや強めなこと
前述したように戦車は装甲が貫通されると1発で撃破なので、同クラスの戦車の撃ち合いだと「先に当たったもの勝ち」「貫通したもの勝ち」になります。
味方戦車が少数しかいないステージで、相手の命中率 20 %の戦車砲が運悪く先に当たったりしたら、それで戦車は1発でやられるので、もうほとんどアウトです。

リアルと言えばリアルで、私的にはこの装甲貫通のシステムは戦車戦らしくて好きなのですが、HP 制よりも確率に左右されやすいのは否めません
まあ XCOM と同じく、ゲーム中に自由にセーブ/ロードが可能なので、小まめなセーブで対応することはできますが・・・

操作性については、ユニットを選択する時に「ダブルタップ」が必要なので、これが慣れないと煩わしいです。
しかしシングルタップでの選択だと画面をスクロールさせる時にユニットに指が触れて、そのユニットが選ばれてしまう誤操作が相次ぐので、それを考えると(誤操作が起こりやすい)XCOM : EU よりは操作しやすいです。
画面のズームや回転なども自由に行えます。

ただ、画面右下にミニマップがあり、これに触れてしまうと全然関係ないところに画面が飛んでしまう問題があり、触れてしまいやすい場所なのでちょっと難点ですね。
なお、この手のゲームに必須の「未行動部隊を選択する」ボタンは、画面右上の歯車ボタンを押すと表示されます。

以下は Youtube で公開されている公式のトレーラーです。



価格は 1700 円。 正直、iPad のアプリとしては高いですね・・・
パソコン版は 25 ポンド、日本円で 3700 円ぐらいだったので、それを考えると安いのですが、ゲームの評価としては、この価格ではお勧めし辛いのが本音。

さらにシナリオのいくつかは1つ 850 円で販売されていて、全部導入すると 5000 円ぐらいになるという・・・
まあ本体だけでもチュートリアル+3つのシナリオ+おまけステージ3つがあり、合計 28 ステージで、1ステージが結構長いので、ボリュームは十分にあります。

このゲームに「アドバンスド大戦略」のような、ユニット編成と強化・育成の要素があり、第二次大戦の戦史をなぞっていく本格的なキャンペーンモードがあれば、私はかなりハマっていたと思います。
しかし残念ながら、そういうゲームではありません。
でも戦術シミュレーションゲームが好きで、第二次世界大戦に詳しい方には、セールの時なら悪くないかな、と思います。

第二次世界大戦に詳しくない方だと、どの兵器がどんな性能なのか解らないと思うので、ゲーム内のメッセージも英語ですし、かなり辛いでしょう。
相当に人を選ぶゲームですね・・・ だからこそミリタリーマニアから絶賛されているのだと思いますが・・・

Battle Academy (iTunes が起動、iPad 専用)
Battle Academy LITE (デモ用ステージしかプレイできません)