現代の渋谷を舞台にした、ヒップホップアートのようなグラフィックとボーカル入りの BGM、先進的なゲーム性と独特の世界観を併せ持つ DS の名作「すばらしきこのせかい」。
海外でも高く評価された、スクエニの代表作の1つです。

そんな「すばらしきこのせかい」の新作発表が行われたのが昨年の10月、都内某所で行われた共同記者会見の席上です。

しかし、それは「ソーシャルゲーム」。
さらにグリーの元で運営されると告知され、ファンからは大ブーイングが起こった訳ですが、それでも原作のプロデューサーやディレクターが直々に関わっていることや、「オリジナルと同様のアクションバトルを目指す」「ソーシャルゲームの型にはめずにチャレンジする」などのコメントもあったことから、期待する声も少なからず上がっていました。

しかし今年5月、Android で先にスタートした「すばらしきこのせかい -LIVE Remix-」の内容は、画面連打や押しっぱなしだけで戦闘が終わり、敵の攻撃を回避することもできないシンプルなグリー型ソーシャルゲームであり、すばせかファンの期待を完膚無きまでにぶち壊すものとなっていました。

プレイヤーのレビューにも悲壮感が漂い、各所で落胆の声が上がり、公開と同時に旧来のファンをガッカリさせたアプリと言えます
「すばらしきこのせかい」がこんな「すばらしくないこのせかい」になったことは、ゲーム史に残る事件だと言えるでしょう。


・・・という、久々のテンプレオープニングでお送りする「名作がソシャゲになっちゃった」シリーズ第六弾
今回の犠牲者は「すばらしきこのせかい」でございます。

iOS ではすでに、DS 版のグラフィックとサウンドを強化し、ゲーム性も一部修正した新バージョン「すばらしきこのせかい Solo Remix」が発売されていますが、この「LIVE Remix」(以下すばせかLR)は、Solo Remix(以下すばせかSR)の公開後に発表されたものです。

すばせかSR に続編の登場を匂わせる絵が入っていて、その後に「すばせかの新作発表」があったため、「いよいよ『すばせか2』かっ!」と大きな期待が寄せられたのですが、そこで「グリー版すばせかだよーん」と言われ、みんなでズコー!になったタイトルですね。

ただ、雰囲気は非常に「すばせか」らしくなっていて、BGM もハイセンスでボーカル入りのサウンドがそのまま流れます
戦闘シーンも(見た目だけは)オリジナルのアクションゲームっぽくなっていて、こう言っては何ですが、グリーらしからぬ高クオリティーな演出のアプリになっています。

よってオリジナルの内容はもちろん、(グリーなので)ゲーム性も期待してはいけませんが、オリジナルをやった後で、さらにすばせかの世界観を手軽に楽しみたいという形であれば、悪くないのかなぁ、とも思えます。

それでも色々と「グリー」なので、ゲーマー的には残念な部分が多いのが本音ですが。

すばらしきこのせかい LIVE Remix

ミッションを選択し、3つに分かれた渋谷の各エリアに移動して、そこでフィールド上の調査を進めていきます。
フィールドの調査は円が描かれた場所をタップするだけ
タップすると AP(行動力)が減り、経験値とお金が入るという、「ポチポチゲー」のシステムです
たまにザコ敵が現れますが、単なる演出で、フリックしたら消えます。 この辺もまさにポチポチ。

フィールド上を全て調査すると「ボスノイズ」が現れ、アクションの戦闘シーンになります。
ここは(見た目だけは)オリジナルの戦闘シーンと同じで、すばせからしいハイスピードなアクションバトルであり、バシバシ弾を撃って斬りかかる、多彩な攻撃を繰り出すことが出来ます。

バッジは「タップ」「スラッシュ」「ホールド」の3つの操作で発動し、狙いを付ける必要はありません。
画面のどこでも良いのでタップやスラッシュをすると、もっとも近い敵を対応したバッジで攻撃します
連打でバシバシ繰り出せるので、原作と同じ爽快感はありますが・・・

しかし、ボスノイズとの戦いでは、相手は攻撃してきません
つまりボスとは名ばかりの単なる「的」。
ダメージを受けないので、戦闘評価は倒すまでの時間で付けられます。

さらにターゲットが自動であり、「タップした相手を狙う」ということもないので、タップで攻撃するバッジを装備している時は、やることは画面を連打するだけです。
「敵全体をホールドで攻撃するバッジ」の場合だと、もう画面を押しっぱなしにしていれば勝手に終わります。
もはや戦闘と言うより単なる演出。 すばらしきこのポチポチ

すばらしきこのせかい LIVE Remix
※ザコは指でなぞるだけ。 ポチポチに良くある、単に出てくるだけの存在です。
ボス戦は一応アクションっぽい戦闘になりますが、単にバッジに対応した操作を行うだけです。
フリックで斬りかかったり、タップでブーメランを出したりなど、多彩な攻撃を出せますが、どうせやられることはないので、タップやホールドで出せるバッジだけ装備して、連打や押しっぱなしにするのがラクですね。
まあ、「ゲーム」ではないです。


ただし探索中に「強襲ノイズ」「元凶ノイズ」という相手が出現する場合があり、これは攻撃を行ってきます
また、例えばカンガルー型の強襲ノイズは画面外にジャンプし、落ちてくるまで攻撃が当たらないので、ジャンプ中は攻撃を控え、着地を一気に攻めるというような、簡単なアクション性はあります。

しかしこのゲームは、プレイヤーの移動や回避がありません
相手の攻撃は食らうしかありません
つまりアクションゲームと言うより、HP が尽きるまでに相手を倒せるかどうかという内容になっています。
おまけに制限時間もあって、HP が尽きなくても時間切れになったら終わりです。

強襲ノイズや元凶ノイズと戦うには BP というポイントが必要で、これを消費してコンティニュー出来るのですが、なくなったら時間経過を待たなければなりません。
ただ、倒せなくても同じチームのメンバーに救援を呼ぶことができ、仲間が倒してくれる場合もあります。

つまりこの辺りの強敵のシステムは、旧来のソーシャルゲームをそのまま踏襲しています。
全体的に、見た目はアクションぽく、外見もゲームっぽくなっているのですが、システムはきっちり「グリーのソーシャルゲーム」です。
それが「すばらしきこのせかい -LIVE Remix-」の正体です。

すばらしきこのせかい LIVE Remix
※左は強襲ノイズ戦。 相手のレベルが高く、バッジの攻撃力が十分でない場合、どうあがいても制限時間内に倒すことはできません。
よって BP を消費して連戦するか、仲間の救援を頼るか、課金アイテムで BP 回復するかになります。
もちろん課金ガチャで SR とかのバッジを出せば別かも知れませんが、まさにソーシャルゲームですね。
また相手の攻撃を回避できないのが、オリジナルを知っていると非常にもどかしいです。

※右は元凶ノイズ戦で、多くの仲間と共同で HP を減らさないと倒せません。
このゾウのような敵は放射状に弾を出して、これに当たると連続でダメージを受けます。
「だったら相手が弾を出したタイミングで、敵の上にテレポートして下突きするバッジを使えば、弾を飛び越えられるんじゃないか?」と思い実行したのがこの画像のシーン。 しかし弾を飛び越えても(何もないのに)ダメージを食らい続けます。
つまり相手の攻撃はどうあがいても回避不可能になっていて、ゲーム性と言えるものは出来る限り排除されているようです。


一方、「ソーシャル」ゲームとして良いと思える部分は、毎日行われるチーム戦
原作と同じく「死神のゲーム」が1週間行われるのですが、それとは別に毎日別のチームと「スコア」を競う対戦をすることになります。
チームは自動で組まれるため、どこに入ろうか悩んだりすることはありません。

スコアはボスノイズや強襲ノイズと戦ったり、各エリアの探索を進めることで獲得でき、同じチームメンバーのスコアが合計され、相手との差が常時画面に表示されます
仲間の進行状況なども表示されたりするため、協力している感じがあって良いですね。

毎日その日の結果が集計され、上位者にはボーナスが与えられます。
さらにチームで得た戦利品が貢献度の割合に応じて分配されます。
1週間経ったらチームとしての成績と報酬が与えられ、その時のチームは解散。
そして新しいチームで再び次の週が始まります。

ただ残念なのは、自動で行われるチーム編成に「アクティブ率」が加味されていないことで、Android ではもう2ヶ月以上前にスタートしているため引退している人も多くいますが、そういう人もチームに混じってきます。

先日、最終ログインが 30 日以上前のメンバーが9割のチームと当たり、当然のように相手側で活動している人は1人か2人という状態で、チーム戦は一方的な状態。
こんな状態で1週間やらないといけないとか、全然楽しめないでしょうね。

ひたすら同じところをグルグル回る内容なので、チーム戦のコンセプトが成り立っていないとゲームが崩壊すると思うのですが・・・
ここの渋谷のコンポーザーはこの状況が見えているのか気になります。

すばらしきこのせかい LIVE Remix
※左が渋谷の3つのエリア図。 赤・青・緑に色分けされていますが、これはそのエリアで出現する敵の属性も表しています
属性は 赤→緑→青→赤 で有利なので、行くエリアに合わせてバッジを装備しましょう。
各エリアの探索率がすべて 100 %になると2周目になり、スコア効率がアップします。
すでに 100 %のエリアで探索を続けても意味がないので、状況に合わせて移動しましょう。
右は戦況画面。 対戦チームは日ごとに変わります。 「デイリーランキング」は1日ごとなので、長々としたイベントではないのが良いですね。


すばらしきこのせかい LIVE Remix
※たまに「ピグ」という、バッジを得られる宝箱のようなキャラが出現するのですが、鍵となる「リンゴ」を使っても運が良くないと逃げられます。
一番下の青リンゴではまず無理、その上の完熟リンゴでもまず成功せず、一番上の虹色リンゴは課金アイテムです。
そして失敗すると入手できなかったバッジが表示され、「逃した獲物は大きかった」感を煽る演出が行われます。
この辺の課金演出はさすがグリーと思えますね。


全体としては、やはり「すばらしくないこのせかい -Gree Rimix-」だった訳ですが、ただ世界観はそのまま再現されているし、BGM は良いし、雰囲気は損なわれていないし、「ファンアイテム」としては悪くない気がします

少なくとも他の「名作がソシャゲになっちゃったシリーズ」と比べると、マシな方ですね。
ソーシャルゲームとしてはかなり力が入っているので、ポチポチゲーがメインの「ソーシャルゲームユーザー」だと「こりゃすげぇ!」となるかもしれません。
ポチポチしか出来ない人に、ゲームっぽいものをやらせる入門アプリとしては良いかも?

冒頭でも述べましたが、オリジナルがやりたいなら iOS にはすでに「すばせかSR」がある訳で、たまに雰囲気を楽しむものだと考れば、これもアリかなぁと思えないこともありませんね。
負荷が高い時に肝心の BGM がブツ切りになるのは頂けませんが、これはアプリを再起動すれば治ります。 頻発するので何とかして欲しいところではありますが。

すごく良くできてるけど、でも「グリーのソーシャルゲームの範囲内」です。
残念ながら既存のソーシャルゲームの型にはまっています。
なんというか、ここまで作って、それでもキッチリ「グリーのゲーム」に調整してくるってのは、ある意味さすがだなと思いますね。

すばらしきこのせかい -LIVE Remix- (iTunes が起動します)