1980 年代後期に大流行し、そして 1990 年代に入って急速に衰退した、読者が行動を選択できる書籍「ゲームブック」。
そんなゲームブックの電子書籍化による復刻が iOS で進んでおり、その先駆けである「iグレイルクエスト」は出版社側の事情で非公開になったものの、「展覧会の絵」などの名作と言われる本が公開されています。

そして先日、1990 年に刊行された名作と呼ばれるゲームブックの1つが復刻され、公開されました。
送り雛は瑠璃色の」です。

霊能力を持つ中学生が地元の伝承を追うストーリーで、ジャンルとしてはホラーになるでしょうか。 そんなに恐い訳ではありませんが。
私は原作を知らないので、いわゆる「思い出補正」がなく、その視点で見ると「そこまで賞賛されるほどでは・・・」というのもあるのですが、しかしゲームブックとして面白い作りになっています
どちらかと言うと、主人公と同年代向けの作品と言えるでしょうか。

なお、iTunes のアプリカテゴリはゲームではなく「ブック」になっています。

送り雛は瑠璃色の

序盤は選択肢がほとんどなく、普通の小説として進んでいきます。
また、ゲームブックは RPG 仕立てのものが多いので、攻撃力や HP、アイテムがあるものが多いのですが、この作品のステータスは MP と HP を兼ねた「霊力」というポイントのみとなっています。

読み進めていくと、街にある施設を自由に訪問できるシーンになります
図書館や神社、資料館や公園などがあり、行った場所に応じて情報が得られますが、時刻が1つ進みます。
一定の時刻になると翌日まで訪問は出来なくなり、本編のストーリーに戻されます。

時間・日付・訪問先によって移動するパラグラフ(ページ)が異なるのですが、電子書籍化されているため、移動可能なパラグラフが明るく表示されていて、迷うことはありません
この辺は電子版の大きな利点と言えますね。

主人公は状況に応じて、霊的に観察する「霊視」、霊的に探査する「霊査」、難読文の意味を察する「霊観」を使えます。
使用すると、霊視なら画面全体にノイズがかかり、霊査なら暗転してレーダーのようなものが表示される演出が現れます。 この辺も非常に雰囲気があって良いです。

ただ、これらを使うと「霊力」を消費します。
霊力は耐久力も兼ねていて、選択の失敗やダメージ時にも消費するので、使いすぎると最後まで持ちません。
しかしゲームブックらしく、前のページに戻ってやり直す「ズル」も可能です

演出面で言うと、今作はページ送り時に、ちゃんとページがめくれるアニメーションがあります。
指の動きに合わせてリアルにページがめくれるので(i文庫 と同じスタイル)、より「紙の本らしさ」が増していますね。

送り雛は瑠璃色の
※左は「霊視」、右は「霊査」のシーン。 演出は表示されてからページが進むのではなく、ページ全体にかぶさるように表示されます。 この演出はすごく良いですね。

難点は、まず内容に関しては、文章が読み辛い。
字が読み辛いのではなく、言い回しやセリフのかけ合い、文章構成などに読み辛い部分が多くあります
20 年前の文庫スタイルの小説ですから、昨今の人気ライトノベルとかを読んでいる人だと違和感を感じるかもしれません。

また、難解な古文に関する表記が多く、増長と言える程に解説が長かったりするので、その部分は読んでて疲れます。 もう読み飛ばしたくなります。
(ただ、それが後のヒントになってたりするので困る)

このアプリは本体無料で、課金することで中盤以降を読めるようになっているのですが、読み辛い登場人物のかけ合いと、難解でダラダラ続く古文の解説の後に「続きが読みたかったら課金してね!」となるので、「このタイミングじゃ課金者激減だろ!」と言いたくなる状態です。

そして最悪なのが、広告バナー。 うっとうしいを通り越して、マジでウザい。
先に言っておきますが、課金すれば広告バナーは全て消えます。 よって無課金の場合の話です。

しかし読書中も常に画面上部に広告バナーが表示されるため、気になってしょうがありません。
思い浮かべてみて下さい。 本の上に一定時間ごとに切り替わる広告バナーがあって、さらにそれが動画になっていて、常にチラチラ動いてたりする様子を

おまけに地図画面や設定画面を開くたびに、画面の中央にデーンと他のアプリの宣伝広告が表示されます
毎回「×」ボタンを押して消さないと地図を確認できません。

再度言いますが、課金さえすれば全部綺麗サッパリなくなります。
しかし課金しないと中盤以降が読めないフリーミアムのアプリなのに、この「無課金者も何とか収益に繋げよう」と必死になってる様子をみると、さすがに引きます。
もう完全に雰囲気というか、イメージぶち壊しで、ゲスな印象を抱いてしまいます。

送り雛は瑠璃色の
※無課金状態の様子。 一定時間ごとに切り替わる上部バナーが読書中にも表示され続けます。
アダルトがないのはまだマシだけど、動画バナーだとすごく鬱陶しい。
右の画像はもう・・・ 見ての通りです。 いや、そりゃあ開発費も回収しないといけないんだろうけどさ・・・


本体は無料。 ただし無課金の状態では内容的にも広告的にもかなりアレです。
フルバージョンにする課金は 450 円
原作書籍が 1200 円ぐらいなので、一応お得とは言えるでしょうか。

展覧会の絵」がストーリー重視のゲームブックだったのに対し、こちらはかなり「ゲーム」としての要素が強い印象です。
攻撃力もアイテムもありませんが、「任意の移動」と「時間経過」を盛り込み、中盤の展開が一本道でないのは、繰り返し遊ぶことも出来て良いですね。
ややネタバレになりますが、ゲームの背景や裏設定なども数度のプレイで伝承や情報を集めることで、少しずつ解明されていく形になっています。

なお、これらのゲームブックの復刻は Faith という会社が「iGameBook」というブランドを作って行っています。
ただ、iGameBook のアプリは玉石混淆っぷりが酷く、「展覧会の絵」の作者さんが書き下ろした「待祭の旅」などは非常に読みやすいのですがあっという間に終わってしまい、特に Fast Series と称されている短編集には有料アプリのレベルとは思えないものも混じっています。
さらに SweetLove Series と題された女性向けのものは、もはや単なる簡易アドベンチャーゲームであって、ゲームブックでさえありません

「グレイルクエスト」や「展覧会の絵」を見た時は、ゲームブックに対する想いや愛情のようなものが伝わって来たのですが、個々の作品はともかく iGameBook というブランドについては、そんなものは欠片も感じられません。
こういうブランドやメーカーの元でゲームブックの復刻が進むのは、本当に良いことなのかどうか、激しく疑問です。

ともあれ「送り雛は瑠璃色の」については、相応のボリュームもあり、ちゃんと「ゲームブック」している内容です。

送り雛は瑠璃色の (iTunes が起動します)
顔のない村 (送り雛の関連作品)