開発はサウンドノベルの先駆者チュンソフト、プロデューサーは 428 ~封鎖された渋谷で~ の総監督、シナリオは Ever17 -the out of infinity- を担当した方が書き下ろしたという、まさにオールスター的な陣容で開発された 2009 年発売の DS のアドベンチャーゲーム「極限脱出 9時間9人9の扉」。
それがスマートフォンに最適化されて iPhone で発売されています。
9時間9人9の扉 Smart Sound Novel」です。

かまいたちの夜 Smart Sound Novel」に続く Smart Sound Novel シリーズの2作目ですが、電子書籍のようなインターフェイスになっていた かまいたちの夜SSN とは違い、こちらはタップするごとに文章が進んでいく一般的なノベルゲームのスタイルです。

全体的に、シナリオやキャラクター、演出や設定などはマンガ的になっています
会話シーンも「顔グラフィック+フキダシ」という形で表現されていて、いかにもマンガっぽい感じ。
よって かまいたちの夜 や 428 のような推理小説・文庫小説風のものを期待すると「違う!」となるのでご注意下さい。
チュンソフトのサウンドノベルではありますが、どちらかと言うと Ever17 のような作風が強く出ていますね。

この記事の画像は全て画面が横向きですが、実際には縦持ちでもプレイ可能です
ただし元が横画面のゲームであるため、縦でプレイするとグラフィックの表示は全体的に小さくなります。

なお、私はオリジナル(DS 版)はプレイした事がありません。 それを先に述べておきます。

9時間9人9の扉 Smart Sound Novel

「ゼロ」と名乗る謎の人物に連れ去られ、沈没する客船に閉じ込められた主人公と、他の8人のメンバー。
彼らが協力して脱出する過程が描かれるストーリーです。

ただ、途中にある「扉」を通れるのは、特定の条件に応じた3~5人だけ。
最後に脱出できる人数も同じなので、誰かは脱落しなければならず、その辺りの駆け引きがあるライアーゲーム的な要素もあります。

基本的には文章を読み進めていくことのみで進行する、小説に近いものですが、場面に応じて背景が代わり、状況に合わせた効果音や BGM が流れるなどの「サウンドノベル」としての演出が行われます。

ただ、今作は「選択肢」がほとんどありません
これまでのチュンソフトのサウンドノベルはゲーム中にプレイヤーが選択を行う場面が多く、それによってシナリオが変化していたのですが、今回はかなり少ない。
そこいらのノベルゲームより少ない

具体的には、いくつかある扉を通る時に、どの扉を通るかを選択するのみ。
オリジナルには部屋の調査を行うシーンや、パズルを解くシーンがあったのですが、それらは全部カットされています
このゲームの元のタイトルには「極限脱出」と付けられていて、脱出ゲームを拡張したような内容でもあったのですが、脱出ゲーム的な部分はスッパリ切り捨てられていますね。

ただ、ある程度ゲームが進むと、それまでの進行状態をフローチャートで確認できるようになります
このフローチャートを通して、いつでも読了済みのシーンに移動することができ、「どこでどの選択を選んだことにしたか」も選べるようになっています。
この辺りの流れの解りやすさ、再プレイ時の異なるシナリオへの移動しやすさは、Smart Sound Novel の特徴と言えるでしょうか。

9時間9人9の扉 Smart Sound Novel
※通る扉の選択シーン。 メンバーにはそれぞれナンバーが振られており、そのナンバーが特定の条件に沿っているグループでないと通過できない。
どちらを選んだらどうなるかは入る前には予想できないので、かまいたちのように「推理によってグッドエンドに向かっていく」ことは出来ません。


9時間9人9の扉 Smart Sound Novel
※これがフローチャート画面。 P はプロローグ、Q は選択肢、E はエンディングシーンを表す模様。
A や B は分岐シナリオを表しており、2つの選択肢の双方を読み終えている場合、上記のように矢印が表示され、どちらを選んだことにしているか選ぶことが出来ます。
ノベルゲームの中には分岐の条件がシナリオの前の方にあり、別ルートにいくためにはそこからやり直さないといけない場合も多いのですが、このゲームはこのシステムにより、簡単に別ルートに行けるようになっています。
さらにバッドエンド時には、別ルートにいくためのヒントも貰えます。


Ever シリーズのシナリオライターさんらしい、伏線張りまくりで謎の多いストーリーが面白く、ボリュームも相応にあります。
ただ、やっていて非常に気になるのは・・・ 前述したように途中のパズルや調査のシーンが全てカットされていて、しかもその場面でいちいち「省略されてるよーん」と言われること

ストーリーの途中、「部屋の調査を行う」「謎を解かなければならない」「パズルをクリアしなければならない」という場面が出てくるのですが、スマホ版はそれらが全部カットされているため、「室内に散りばめられたパズル・・・ メンバーはそれらを解き明かし、ロックを解除した」というような一文だけで片付けられてしまいます。

前述したように、私はこのゲームのオリジナル(DS 版)をプレイしていません。
ですからその調査がどんなものだったのか、どんなパズルだったのか、謎をどうやって解明したのか、解らない訳です。
解らないだけに、カットされた部分が非常に気になるんですね
加えてこのカットされたことを示す文章を見せられる度に、これが簡易版であることも痛感させられる訳です。

そういうシーンを全部カットするんだったら、「パズルを解き明かした」「調査して発見した」なんて文章はいらない訳で、ロックは最初から解除しとけ、パズルなんてなかったことにしとけ、それをプレイヤーに意識させる書き方すんな、と言いたくなります。

また、このゲームは調査やパズルのシーンがあることが前提だったから、選択肢が少なくてもノベルゲームとして成り立っていたのだと思います。
ですから調査やパズルが全部カットされていると、選択肢も非常に少ないため、プレイヤーが出来ることはほとんどない

Smart Sound Novel って、かまいたちの夜 の時は「スマートフォンに最適化された電子書籍型のサウンドノベル」だと思ってたのですが、違うんでしょうか?
インターフェイスが普通のノベルゲームと同じスタイルで、途中のミニゲームなども全部カットされたら、それは「最適化」ではなく、単なる「劣化版」でしかないと思うのですが・・・

以下は Youtube で公開されているオープニングムービーです。
このムービーはゲームの開始時にも表示されます。



定価は 1200 円
iPhone / iPod touch 版と iPad 版(HD)がありますが、価格は変わりません。

途中の調査やパズルがカットされている分、ウリのストーリーだけをサクサク楽しめるとも言えます。
ですから遊びやすくはなっていて、DS 版を経験している方が改めてプレイするのにも良いかもしれません。
私は存在だけを示唆されて、実際にはプレイさせてくれないパズルなどに、もどかしさを感じることは否めませんでしたが。

「チュンソフトのサウンドノベル」と言うと、嫌が応にも期待感が増してしまいますが、それをこのアプリには求めない方が良いでしょうね。
ただノベルゲームとしては間違いなく標準以上の作品であり、決して悪くはありません。

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